「三婆」を観た。 [つれづれの記]
「三婆」を観た。
平成22年3月17日(水)
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- 今月の「新橋演舞場」の出し物は、有吉佐和子原作の「三婆」であった。
若いころの話であるが、「君の名は」というラジオドラマの冒頭で、「忘却とは忘れ去ることなり」と言っていたのを聞いたことがある。
今から考えると不思議だが、この当たり前のことを言いながらもなるほどと思わせる、その言葉の遣い方が新鮮だったのかも知れない。
それにしても若い頃に経験したことは意外によく覚えているのに、40を越えたあたりからは、そのほとんどが「忘却」の彼方である。
この有吉佐和子の「三婆」が書かれたのは、1961年ごろだというから、すでに50年以上も経過しているのである。この年代あたりから、日本人の平均寿命がうなぎ上りになったと記憶している。そんなことからも「老い」をテーマにした、さまざまな作品が登場するようになった時代でもあった。
それにしても「三婆」の話にはなかなか入れずに、ここまでダラダラ書いているのにはわけがある。
それは劇場に入る前からなんとなく「この芝居は、前に観たことがある」と気になっていたからである。
緞帳が上がり、全舞台広がる豪壮な屋敷の門と、その門に嵌めこまれた大きな家紋を見た時に、「やはり、この舞台は観たことがある」と確信したのであった。
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先日BSテレビで、懐かしい「ベン・ハー」という映画が放映された。
「そろそろ地デジ対応の大型テレビを買いましょう」という娘の勧めで、購入したテレビで観たのであった。確かに画面は大きく、明るく色彩の鮮明度もよかったが、この映画を観るまでは、古い小型のテレビでも不自由することもなかった。
だが「ベン・ハー」は、BSテレビでしか観ることができなかったので、いつもなら寝室の小型テレビで横になって観ていたのに、今夜だけは映画を観るために、リビングの長椅子で観ることにしたのであった。
ところが観はじめてから驚いた。
この映画は1956年に制作されたというから、私が新宿の歌舞伎町の映画館で観たのは、高校生を卒業する頃であったろう。映画「十戒」も同じころの制作であったと思うが、この2大作品の大スペクタル映像は、70歳になった今でも鮮明に記憶している。
「鮮明に記憶している」と書いたが、「ベン・ハー」の大画面と、画像の鮮明さに引き込まれながら、愕然とすることがあった。
もし他人から、「ベン・ハー」という映画の内容を聞かれたとしたら、おそらくよどみなく語って聞かせることができるであろうと自信をもっていたのだが、とんでもない。
観はじめた「ベン・ハー」のそのほとんどの内容が、今夜はじめて観たのだと思えるほどの、まったく知らないストリー展開であったのだ。
ではあの「他人によどみなく映画のストーリを語れる」と、思い込んでいたことは、どうなってしまうのだろう。
記憶とは、かくも曖昧なものである。
自分でも確かめたことはないけれども、あの鮮明に記憶していると思い込んでいた「十戒」のストーリも、音をたてて壊れてゆくのを感じていた。
どこまで話が逸れてゆくのだろうと思われるだろうが、今夜の「三婆」を観ながら、「観たという記憶と、観たのに記憶がない」という曖昧と混沌の中で、確かめもせずに曖昧を享受している自分の生き方が、なんとなくあわれになってきた。
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「そんなことより、はやく「三婆」の感想でも書け」という声が聞こえたような気もするが、もともと芝居の評論など書こうとも思っていないのである。
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ところで、新派の公演でいつも気になることがある。
暗転前の舞台で、その役者のほとんどが、ライトの消える寸前に、絶望の表情をしてみたり、絶句したり、歓喜の表情をしてみたり、大仰な叫び声をあげたり、役者同士が抱き合ったり、見得を切ったりして、一瞬動作を固めてライトが消されるのである。
あの「水戸黄門」の助さん格さんの印籠を出す場面のようでもあるが、水戸黄門では終わりの5分前に、あの印籠係が登場するのであって、新派のように暗転の度ごとにあるのではない。
それが嫌いだから、このように言うのではない。
新派の芝居に多い手法であって、これがなくなったら場面展開に困るだろうし、歌舞伎の見得を外したようで、なんとも物足りなく思うことだろう。
とは思いながらも、そろそろ新派なりの「決め所」や、暗転の時の新手法が工夫されてもいいのではないかと思っただけである。
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「三婆」の役者たちの動きを横目で追いながら、それ以上に気にしていた役者がひとりいた。
それは藤田朋子という女優であった。
70の爺さんがファンになったというのでもない。たまたま古くから知っていたというだけのことであった。
(この記事は、まだ書きかけで、完結するまでには、数日がかかるでしょう)
2010-03-24 18:19
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