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そうだ京都に行こう 【5】  [そうだ京都に行こう]

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  そうだ京都に行こう 
                    (その5 京都御所まで)

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  •  烏丸通りから少し脇に入った小さな店で朝食をすませました。

     昨晩までの娘の行動を振り返ってみますと、どうやら私になるべく散財をさせないようにと気を遣っているように思えるのです。
     わがままなところは、私も娘も変わりはしませんが、家にいるときとはどこか異なるところがあるのです。

     彼女が学生時代に、卒業研究に万葉集を選んだものですから、奈良に行きそして明日香村を自転車で巡ったこともありました。
     妻も、教養講座で万葉集を勉強しているという友人に誘われて明日香を歩いています。

     その後も何度か奈良や京都の寺を訪ねたこともありました。ですから共通の話題のない我が家でも、明日香村のことだけは話題にすることができたのです。
     やがて彼女が勤めるようになって少し余裕ができたのか、こんどは友人を誘って奈良や京都に出かけるようになりました。

     あるときには、できることなら奈良か京都に住みたいと語っていたこともありました。
     ですから今回も、本当はひとりで京都に来たかったのかもしれません。それなのに唐突に私に、「京都に行こう」と言い出したのにもきっと何か理由があるのかもしれません。
     そういえば昨晩もお酒を飲みながら、悩みとも相談ともいえない口ぶりでポッリポッリと話していたのを覚えています。

     私はうわの空を装って聞くともなく聞いていましたが、真剣に話の中に入ってゆこうとはしませんでした。
     何か私に話したいことがあるとはわかっていても、聞いてしまった後ではどう対処していいのか、その答えが見つからないだろうと怖かったからです。
     こんな時に父親なんてものは役に立たんものです。 

     御所見学の受付時間は11時です。その時間には、「まだ早いから歩こう」と言いながら烏丸通りに出ました。
     すると目の前の信号で、空車のタクシーが停まりました。このまま娘と黙って歩くのも、なにか辛いものがあるように思えて車に乗り込みました。

     御所まではわずかな距離なので、まもなく下立売御門が見えてきました。受付時間までには、まだまだ1時間もありましたので、そこで降ろしてもらい下立売御門から京都御苑に入りました。

     門から一歩入ると、そこにはたちまち京都の喧騒は消えて、うっそうとした木々には鳥も鳴いていました。
     そのまま東の方向に道を取り歩き出しました。もう10時を過ぎていますのに誰も歩いていないのです。

     道の左右には旧宮家のお邸がありまして、右手のお邸では庭園の特別公開中の看板がありましたが、ここにも誰もいないのです。
     私たちは門から数歩入りましたが、残念ながら参観する余裕はありませんから門を出てさらに東に歩きます。

     娘が、次に来た時に見学しましょうと言った仙洞御所と大宮御所に突き当たります。そこを左に折れて、京都御所の正門である建礼門に向かって歩き出しました。
     この広々とした空間には、松をはじめとして大きな木々が枝をゆったりと伸ばしています。ここは小石が敷きつめられ、道幅は約20m、長さ600mもあろうかとみえます広い道なのですが、ここにも誰もいないのです。
     はたして京都の人たちも観光客も、どこに行ってしまったのでしょう。
     
     この道の左側には、30cmほどの踏みつけられて小石のない白い道が真直ぐにつづいているのです。
     不思議に思いまして、娘とああでもないこうでもないと話していました。しかし、その答えはあっ気なく出たのです。自転車に乗った学生風の女性が、建礼門の方向から一列になってその白い道を走ってきたのです。

     おそらく平安の時代でしたら、牛車が軋みを立ててゆっくりと内裏に向かったことでしょう。でも今日は、若い女性が颯爽と自転車に乗って走り去ったのです。

     どうしたことでしょう。その若い女性たちの走り去ったことをきっかけとして、散策する人やジャージ姿で駆ける人、おまけに観光客までもが、どこからか湧き出して来たのです。
     おまけに雨まで降って来ました。私たちは傘を出すがめんどくさいと、広い道からそれて大きな木々の下を歩きます。やがて白雲神社と警護署の間を通り過ぎて蛤門あたりまで来ましたので、そこで時間を確認しようと時計を見ます。なんと10時50分なのです。

     私は、「急ぐぞ」と言い残して小走りになります。すると後ろから「お父さんがのんびり歩いていたからでしょ」と刺すような声が追いかけてきました。
     私は聞こえないふりをして、昨日出合った外国の高校生が慌てて清所門に向かって走り出して行ったことを思い出しながら、残りの300mを急ぎます。
     門の前では3人の衛視と3人の事務官が、「遅いですね」という表情で迎えてくれました。

     何年かぶりで御所の参観者休所に入りました。
     すでに30人ほどの参観希望者が、御所の解説ビデオを観ていました。やがて15人ほどの修学旅行生と数人の付き添いの教師、そして一般の参観者の後について出発しました。

     宜秋門の前を通って御車寄から諸大夫の間の前庭に向かいます。そこで参観者は案内の係官を囲むようにして並び、ご挨拶と諸大夫の間の解説がはじまりました。

     この前に来たときには修理中であった回廊は、朱塗りの色も鮮やかに完成していました。今回は月華門から紫宸殿前の南庭に入ることはできませんでした。
     ですから回廊を右に回りこんで、建礼門側にある承正門から紫宸殿をはるかに見ることしかできませんでした。

     娘は先ほどから建物を興味深そうに覗き込みながら、源氏物語の一場面でも思い出しているのでしょうか、私から離れてあちこちと動き回っています。

     今回は中学生の参観者が多いためか、さすがの案内の係官も張り合いがないのか、いつもより説明の言葉が少なくなっていました。
     そのお蔭で気楽に係官に質問させてもらいましたので私には幸いでした。娘は紫宸殿裏の清涼殿ではもう動こうともせず、滝口あたりでは首を伸ばしたり頭を右に左に傾げて覗きこみます。

    私も娘に語っているつもりもなく、詳しくも知らない源氏物語や大して分かりもしない建物のことを、独り言のようにもごもごと喋っています。お互いに聞いてもいない相手と会話していたのです。

     さらに見学は奥の方に回りこみまして、小御所・御学門所・蹴鞠の庭から御池庭を眺めます。係官は「今日は御常御殿までで、この奥の御花御殿や皇后・若宮・姫宮の御殿と参内殿の参観はできません」と言って、私たちを御三間まで案内し、そこで自由行動にしてくれました。
     私と娘は、御三間の杉の板戸絵をゆっくりと観て広い庭で記念写真を撮りました。

     この暑い時期にも関わらず、紫宸殿を一周したのに、その暑さを忘れていました。
     もしかすると自然をうまく取り入れた匠の技か、木が本来持っている特性を生かした建物の構造ゆえかは知りませんが、しばし暑さを忘れていたことは事実です。娘の御所に入る前の、あの刺々しさはもう消えていました。

     私たちは昨日来た中立売門からタクシーに乗り、今出川御門と同志社大学の前を通って下鴨神社に向かいます。

     もう12時を過ぎているはずなのに空腹感はないのです。


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はじめまして。
お邪魔します。
私も明日香村に行っていました。
TB明日香村つながりでお願いいたします。
by (2007-09-17 16:41) 

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