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「今日の富士山」 09・NO7 [今日の富士山]

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  今日の富士山 2009:3 NO7

                    平成21年3月1日(日)~平成21年3月10
日(火)

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  • 平成21年3月1日(日)
    年々日にちが経つのが早くなる。

    1年なんてアッという間である。
    妻も同じように感じているのだろう、
    「もう今年も2ヶ月が過ぎた」というので、「10年だってアッという間さ、あと10年ちょっとで僕も80だ。でも幸せだから日々が早く感ずるんだ」と相槌を打つ。いやおそらくお迎えが来るのもアッという間のことであろう。

    昔職場で一緒だった後輩が、この3月で65歳の定年退職を迎える。
    そこで日々バカなことをやった仲間が集まって、酒でも飲もうかということになった。おそらく集まると、また昔に戻ってバカなことを話しながら大笑いをするのだろう。

    富士は今日も見えない。

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    今日は降らないというので、境川の自転車道を歩いてみようと思った。ところが白旗神社の前まで来ると雨粒が大きくなった。 

     べっとりと天をおおいて黒雲のつきさすごとく冷雨ふり継ぐ
     本殿のガラスに映る注連縄の厳かなりし房の重さよ
     しずもりの社の前に老人の威儀を正してかしわでの音 

    どうしたわけか、次々と老人たちが神社の階段を上って行くのである。まだ氏子としては新参者の私は、今日がはたしてなんの日であるのか見等もつかなかった。

    老人たちについて本殿前まで来て驚いた。まだ1度も開かれているのを見たことのない本殿の内部が見えたのであった。

            P1070084.jpg

    ガラスで遮られてはいるものの内部の大きな鏡までもが見えていた。
    鏡(カガミ)から「が」の字を取ると「神(かみ)」となると聞いたことがある。鏡に写した己の「我」を捨てると「かみ」に近づくとも聞いたことがある。なかなかの薀蓄である。

    すべてを映し出す鏡に古代人は神秘を感じたのであろう。しかし、映し出された世界はすべてが逆さまだったのである。
    東歌の人々は、水に写った妻の姿が見えた時には、相手にも自分の姿が見えていると信じていたのである。

    内部には、「正一位白旗大明神」の扁額の文字も見えた。

                    P1070086.jpg   

    本殿に向かって左側の階段下には、「源義経公鎮霊碑」があった。

    義経の御骸は宮城県の栗駒町に葬られてあり、御首は腰越の浦の首実検の後で捨てられ、この地に流れ着いたと伝えられている。そこで義経公没後810年を記念して、御骸と御首の霊を合せて「鎮霊祭」を行なったというが、これはその記念碑である。
       
                    P1070087.jpg

    小雨の降るなか境内を一周すると、弁慶藤の前に芭蕉句碑があった。 
     草臥(くたひれ)れて宿かる比(ころ)や藤の花 
    と刻まれてあった。

    この句は、「笈の小文」に所収されており、貞享5年(元禄元年)、芭蕉45歳の時の作品である。「泊船集」によると、大和行脚のときに丹波市に立ち寄った時のものであるという。

    この句と藤沢とは特別かかわりはないものの、句の中にある、「藤の花」にあやかったものであろう。文化二年の建立というから、1804年~1817年頃のものであり結構古いものである。
     
                  P1070089.jpg

  • 平成21年3月2日(月)
    ほぼ1週間ぶりの美しい富士山である。
    明日からまた見ることができないというから、ことさらに今朝の富士は美しい。

    昨日は奈良の東大寺の「お水取り」であった。
    それに東京湾では、「東京レインボーウオーク」が開催された。

    この種のイベントに初めて私も応募してみたが、その「落選」結果のメールを見て驚いた。定員の数倍もの応募者がいたというのである。

             P1070094.jpg

    この富士を稲村ヶ崎から見たいと愛犬チワワと飛び出した。
    七里ガ浜の峰ヶ原あたりでふり返えると、江の島がもやって見えた。

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    反対側に目を転ずると、青い海のかなたに三浦半島の先端までが見えていた。

        P1070095.jpg

    七里ガ浜の行合橋まで来ると、浜には流木があった。

     しらしらとうち捨てられし白骨のごとき流木晒されてあり
     天と海一つとなりて限りなく三浦岬の腹這いて見ゆ
     はるばると七里ガ浜の白波の彼方の富士を見ることなしに
     雲なくば海に浮かべる富士の峰黙せる女の何に思うらん

             P1070097.jpg

    稲村ヶ崎についたが、期待していた富士は見えなかった。
    その見えない富士を、いつまでも動かずにじっと見詰めている女性がいた。

        P1070100.jpg

    夕方になり、富士にかかっていた厚い雲が一瞬だけ切れて富士の影をのぞかせた。
    明日からまた1週間は見ることができないというので、載せておくことにした。

             P1070102.jpg

  • 平成21年3月3日(火)
    肉眼では稜線だけが見えているように思うのだが、それも気のせいかも知れない。

    部屋の窓から日の光が入ってきた。ふり返ると滲んだような太陽であった。
    これからどんどん温度が下がり、昼過ぎには関東地方にも雪が降るという。
      
             P1070103.jpg 

    そんな日に雛祭りを祝う「茶巾寿司」を、男の私が渋谷の明治神宮前駅の八竹まで買いに行かされるのである。

     若者の街によれよれ老いぼれの八竹に急ぐ雪の降る前 
     背を丸めフードジャンパーダブダブの逃げるビビビのネズミ男よ 
     颯爽と色とりどりの若者の不況の街で生業(しごと)(いぶか)

                    P1070104.jpg 

    幸いなことに、行きも帰りも「快速急行」に乗ることができたので、1時に出て4時過ぎには家についていた。

  • 平成21年3月4日(水)
    こうして毎朝天気を気にしながら富士を見つめていると、まるで気象予報官にでもなったような気がするのである。

    昨晩は都内で初積雪を記録したという、ここ藤沢でも、「ボタン雪が降っているよ」と娘が言っていた。

             P1070106.jpg

    パソコンの前にいる私に、「富士山が見えます」と妻が知らせに来た。

    午前7時30分には見えなかった富士が、9時30分には突然その姿を見せたのであった。
    ところが15分経ってからもう一度見ると、もうそこに富士はなかった。

                    P1070107.jpg


    午後は、明日の朝早くに島根に帰られるという「健脚老人」に届ける写真があったので、藤沢駅で待ち合わせた。
    「お別れ散歩」に江の島まで歩こうと出かけたが、鵠沼あたりで雨になり傘もないので引き返すことにした。

     住み慣れし出雲を出でて娘との暮らしになると淋しげに言う
     それまでにお出でなさいと三年過ぐ砂の器の景色見んとぞ

    島根の隣の鳥取出身の鉛筆画の異才齋鹿逸郎の展示会が、ルミネ6階で開催されていることをお伝えることを忘れていた。
    次回にお会いした時のために、歌集「伯伎集」を写真に撮っておこうともう一度訪れた。
    しかし、その歌集の表紙の写真も和歌もピンボケで使い物にならないのであった。でも偶然書き写した5首の和歌があった。

     朝毎の刈草中にどくだみの臭ひのたつを厩にひろぐ
     いそがしく吹き来し風が藪かげの白き倉庫に光りつつ吹く
     軒下に暗くなりゆく葱頭庭の反射の黄をたもてり
     草刈りに朝ゆかむと石段に待つ妹は吾の鎌を持つ
     草山は弱き朝のあかねありやや黄づきてなびく草見ゆ (齋鹿逸郎歌集「伯伎集」より)

  • 平成21年3月5日(木)
    啓蟄の日の空はどこまでも青い。
    かすかに見えていた富士も、20分ほどで雲に隠れてしまった。        


            P1070115.jpg

    天気がよいのも、今日だけのことだという。

    村岡にある功徳山天嶽院(曹洞宗)には、平賀源内の墓(分骨)があると聞いたことがある。
    平賀源内は、江戸時代の本草学者であり蘭学者・医者・作家・発明家・画家でもある。その著名な平賀源内の墓が、どのような縁があって、この天嶽院にあるのかを知らなかった。

    藤沢小袋谷線で天嶽院に向かった。
    いつも車や散策でこのあたりを歩いているのに、この水戸公建立と伝える茅葺屋根の山門から中に入ったことはない。
    杉や檜の常緑樹にかこまれた山門は、外からながめだけでも山寺のごとき趣があった。

                  P1070117.jpg

    なるほどチラシにも書かれているように、京都の寺を思わせる。山門をくぐると、
    もうそこは俗世間から切り離された清浄な世界が広がっていた。

    テレビドラマの「山田太郎ものがたり」にも登場した寺院であるというが、もう一度「なるほど」と思わせる風情があった。
    ただし、そのテレビドラマは観ていない。

                  P1070119.jpg

    境内はきれいに掃き清められていて、そのだれもいない空間を独り占めにすることができた。

    本堂に向かって右側の石碑には、
     峰の色渓のひびきも皆ながら我釈迦牟尼の声と姿と (道元禅師御道詠)

    左側の寺務所前には、箒を持ったかわいい小坊主の脇に、
     掃けば散り払えば又も塵つもる人の心も庭の落葉も
    と彫られてあった。

    平賀源内の墓を探したが見当たらない。
    あきらめかけた時に参道で赤子をあやす若い母親の姿を見つけた。平賀源内のお墓のある場所を尋ねたが、この寺の奥さんだというが知らないという。 

         P1070133.jpg

    墓地に入る許可をいただいて高台にあるという墓地にのぼり、ふり返ると立派な七堂伽藍が見えた。
    この寺の周囲を一周したけれども、平賀源内の墓はどうしても
    見つからない。

     参道の苔に枯葉の一つ散りそっと拾いて手にのせてみる
     石畳歩む靴音ひそやかに静寂(しずけさ)やぶるヒヨドリの声
     やわらかき春の日さして
    甍波七堂伽藍風渡りゆく 

    帰りかけた時に植木の手入れをしていた職人さんの姿が見えた。するとなんと、「今来た道を戻り、その一番高台にある石段の上だ」とおっしゃるのであった。

         P1070134.jpg

    こんなに分かり易いところにあったのに、なにを見ながら通り過ぎたのだろうと恥ずかしかった。
    それは私の人生を見たような気がしたからである。

    石碑の正面には、
     峯岸寺殿前亞相晴徹暁雲永●儀 (他の文字は省略)
    とあるが、浅学の悲しさ書かれている内容が分からない。磨耗しているだけでなく、文字も判読できないものもある。

    碑の裏面には、
     寛文九年巳酉 武州住平賀玄純法橋霊 (他の文字は省略)
    とあるからには、平賀源内にかかわりのある碑であることは理解できたが詳細は分からない。

    なんでも源内の戒名は「智見霊雄」だというが、この碑に同じ戒名を見つけることはできなかった。
    分骨というから調べてみたら、源内の墓所は浅草の総泉寺跡(台東区橋場2-22-2 )にあるという。

                    P1070135.jpg

    のんびりと広い天嶽院の境内と墓地を散策してくたびれたが、歩数計ではまだ5000歩であった。

    そこで、この近くにある長福寺に向かった。

    江戸時代には庶民の富士信仰が流行った。しかし、江戸の街に住むだれでもが、富士登山をすることができたわけでもない。そこで江戸の駒込や高田・目黒などにも「富士塚」が築かれたのである。

    この長福寺のこんもりした山も、その「富士塚」であろう。

           P1070140.jpg

  • 平成21年3月6日(金)
     「侍ニッポン」は中国に「4対0」で勝利したが、富士はけぶって見えない。

    仏像の完成を待ってくれる人がいる。
    もともと拙い作品ではあるが、「これでよし」と見極められない仏像が何体もある。もしかしたら完成とは諦めと同義語ではないかと思えるのである。

     口元の微笑みかすかに現われてようやくにしてノミを置く午後
     静かなる時の流れを愉しみて向かう仏の微笑みており
     正月の満腹顔の子ども等に涙の母の微笑みに似て
     
     
                    P1070142.jpg

  • 平成21年3月7日(土)
    これから晴れるというが、まだ富士のあたりは厚い雲で覆われている。

             P1070143.jpg

    鎌倉に出ようと手広の交差点まで来た時に、急に青蓮寺の方向に曲がりたくなった。

    寺の坂道を登りきると後は下りだけである。家族で車で何度か来たことはあるが、そこから先は未知の世界であった。
    ところが驚いたことに、西鎌倉駅まであっという間に着いてしまったのである。

    なんと、そこはもう先日来たことのある龍口明神社の近くであった。同じ道は退屈であると神戸川沿いの細道に紛れこんだ。
    しばらく歩くと、せせらぎの音が聞こえたのでのぞきこんだ。ここも鎌倉の川の特徴を持った岩盤の上を、瀧のごとく水が流れていた。これより少し下ると、もう川幅いっぱいの流れてになって、そこには美しい白鷺がいた。

    なんとか白鷺の姿をカメラに収めようと追いつづけたが、結局白鷺にからかわれただけで失敗に終った。
    あきらめてふり返ると、白鷺はもとの場所に戻ってこちらを見ているのである。 

     春を乗せ江の島行きのモノレール頭上間近に音させて行く
     せせらぎも春の音する神戸川淀みの木陰白鷺もいて
     和菓子買う老婆の背後江ノ電の軋みの音を響かせて過ぐ 

                    P1070147.jpg 

  • 平成21年3月8日(日)
    侍ニッポンは、韓国に「14対2」でコールド勝ちした。何事も一所懸命で必死にならなくてはいけないということを教えてくれた。

    でも富士は見えない。

             P1070150.jpg

    仏像彫刻の稽古日である。

    やるべきことはあるのだが、このところ熱心ではない。気持ちが充実していないと怪我をすることがある。
    だから彫ろうとする気持ちが高まるまで、いましばらく待つことにしょう。

     お花見の話題もちらほら帰り道川辺の桜引き寄せて見る 
     のぞき見る美容師の手のきびきびと壷に活けたる桜花見ゆ

  • 平成21年3月9日(月)
    今朝の新聞(「朝日新聞」)に、「今は連絡とる勇気ない -ホームレス歌人」という記事が載った。

     ホームレス歌人の記事を他人事のやうに読めども涙零しぬ
     後ろから呼びかけられた嬉しさに先週来の風邪も和らぐ
     我が上は語らぬ汝の上訊かぬ梅の香に充つ夜の公園

    などの投稿歌が紹介され、選者たちの作品への思いが語られていた。
    なんと生活実感のあふれた詠みぶりだろうと何度も読み返した。

    そして今日も富士は見えない。

             P1070151.jpg

    月曜日は愛犬との自転車散歩の予定日である。
    湘南海岸沿いの「サイクリングロード」で、辻堂海岸から茅ヶ崎までを往復した。
    曇ってはいるが、暖かであって風もなくサイクリングには最適なひよりであった。

    少しもやっている烏帽子岩に向かって投げ釣りをしている老人の姿があった。しばらく見ていたが漁獲はないようすであった。

     手ごたえも靄のかなた烏帽子岩それでも投げる老人と海
     ひねもすを海に暮らすか老人のコーヒー缶の散らばしてあり
     雲重ねかすみ流るる夕暮れにひかり留めて海の青さよ
     駆ける犬渚を走る少女子の髪に挿したる飾りきらめく  

             P1070157.jpg


    鵠沼海岸寄りの浜辺に犬を連れた若い女性が現われた。この海の夕暮れには犬を連れた散歩がよく似合う。

    若い女性の彼方には烏帽子岩が見えて、その右にはまるで芥子粒のような漁船が茅ヶ崎漁港を目指していた。

             P1070152.jpg

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  • 平成21年3月10日(火)
    侍ジャパンは1次ラウンドA組の1位決定戦で、韓国に「0対1」で完封された。
    この数年甲子園野球も、プロ野球も見ることが少なくなった。でも今回の第2回WBCはついつい見てしまうのである。

    そろそろ「富士山開幕」の時間となりそうである。

              P1070160.jpg

    3年前に制作した「聖徳太子孝養像」は高さが70cmある。

    今後、この大きさの作品を作ることは少ないだろうと自宅に置いていた。しかし、縁あって座間市の知人に差し上げることにした。そこで再度細部に手を入れたのだがどうにも思うようにならない。このように1度出来上がった作品は、後になってどう手を入れたところで以前よりもよくなることはないのである。

    差し上げると言った約束を違えるわけにもいかない。これと同じような作品をもう一度作る自信もない。さてどうしたものだろう。
    だが、この作品が失敗作だと言うわけでもないからなおさら厄介なのである。

     しばらくは富岳も見えず菜種梅開けて仏像届けんとする  

                    P1070161.jpg

                   
     
     
            
             



     


            
            
             






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