湘南にも秋の風 【3】 [湘南にも秋の風]
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湘南にも秋の風 鵠沼海岸コースの③
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- 愛犬チワワは人見知りをするくせに、おばあさんと若い女の子が大好きなのです。シッポの振り方を観察していると、どうみても「チョーかわいい」ということばを理解しているとしか思えないのです。
A子「おじさん、この犬チョーかわいいネ。なんていう種類なの・・・。」
私 「チワワっていうんだよ。メキシコが故郷だと聞いたことがあるョ。」
A子「おじさんは、いつもここを散歩してるの・・。江の島の花火を見に来たことあるの・・・。」
私 「花火の音だけは毎年聞こえているよ。でもここまで見に来たことはないョ。」
B子「ヘェー音だけっていうけど、家が近いんなら見にくればいいじゃん。」
私 「そうだよネ。でも見えない花火を音だけ聞いて想像するのもいいもんだョ。」
C子「うそだネ。花火なんて見るもんだよ。うち(家)なんか毎年のように電車に乗って見にくるもん。」
A子「おじさんC子は沖縄に転校するんだよ。かれし(彼氏)もいたけどもうお別れしたんだってさ。もう逢えなくなるからきょうは3人でお別れ会をしようと思って江の島にきたんだョ。」
私 「沖縄かぁー、青い海と碧い空と珊瑚が砕けた白砂がきれいだよ。」
C子「おじさん沖縄に行ったことがあるの・・・。でもいくらきれいでも友だちがいないもん。おじさんこの犬抱っこしてもいい。」
私 「いいけど、この犬は嫌いな人を見抜くからネ。」
C子「うちにも柴犬がいるから大丈夫だよ。」
私 「その犬も沖縄に引っ越すんだ。」
B子「C子はブルブルを連れていかないんだってさ、だから私のうちであずかるのよ。その犬はネ、C子のうちに貰われてきた時に、ズッーとブルブル震えていたんだってさ、だからブルブルというんだって・・。」
C子「ほんとは私沖縄なんていきたくはないんだ。でもお父さんのお母さんが病気になったから仕方がないんだ。ほんとは高校を卒業するまでは、みんなと一緒にいたいんだ。」
A子「おじさんは悪い人じゃーないみたい。なにしてる人なの。」
私 「でもネ人をあまり信じてはいけないョ。ほんとうはみんなを信じてほしいけれども、近頃は悲しい事件がたくさん起こっているからネ。だからなにが何でも人を疑ってかかれとは言いたくはないけれども、せめていま少し若い人たちには危険を避ける工夫をしてほしいと思うョ。いま少し用心深い行動もしてほしいと思っているんだョ。」
A子「おじさんの話うちの学校の担任みたい。やかましくてウザいけれどでも好きなんだ。」
私 「ありがとう。みんなにまた逢えるといいネ。」
今しばらく、この女学生たちとの会話を楽しみたいと思ったけれども、どうもA子の軽いジャブ(質問)で、私の前科が知られてしまいそうです。
世間を逃れて生きているような悪さをしてきたわけでもありませんが、ここは今しばらく湘南の静寂な生活を楽しみたいものだと思っているのです。
私はいつになく慌てて愛犬チワワを前籠に乗せ、「みなさん楽しんで帰ってネ。C子さん沖縄でもお元気で・・。」と自転車のペダルを踏み込みました。
すると後ろから、「おじさんありがとう。また逢ったらよろしくネ。」とA子の声が追いかけてきます。
鵠沼海岸からの富士
ここで余計なことを書きますが、こんな人相のよくない爺さん(私のことです)が、ひとりで自転車散歩をしていたとしても誰一人として声をかけてくるような酔狂な人はおりません。
まして若い女学生たちに話しかけてもらえることなどあったためしもありません。もしこちらから若い女性に声を掛けてごらんなさい。それこそ大声を出されるか、不審な目で見られることは請け合いです。
それなのに私が愛犬チワワと散歩をしていますと、海岸といわず、街中といわず、老若男女から「超かわいい」「触ってもいいですか」と声をかけられるのです。
そこで私は友人の男やもめに、「湘南海岸を可愛い犬と散歩をすれば、必ずよい出会いがあるぞ」とふれ回ったこともありました。
「犬が取り持つ縁かいな・・」ではないが、新しき出会いのためにはそれこそお犬様のご利益は絶大なものなのです。
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そろそろ新江の島水族館が見えてきました。館内のイルカショーが始まっているようです。ここまで子どもたちの歓声と大きな拍手が聞こえます。
この片瀬西浜海岸の海の家も壁が外され、床も外されてはいるのです。でもまだニョキニョキと鉄骨の柱が立ち並び、音を立てて大きなクレーンで解体しています。
この片瀬海岸の海の家は、階段スロープの下に土台までがコンクリートで固められています。おまけに建物は鉄骨造りの立派なものなのです。だからさっき見てきました鵠沼海岸の木造作りの海の家のように、数日であっという間に解体されることはないのです。
ですから今日まで鉄骨のあばら骨を晒している、この片瀬海岸の海の家が無惨に見えるのです。
突然新江の島水族館の脇から、数人の子どもが飛び出してきました。