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そうだ京都に行こう 【3】  [そうだ京都に行こう]

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  そうだ京都に行こう 
                
 
(その3 六角堂まで)


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  •  建仁寺の塔頭の一つなのであろうか、大中院の脇を抜けて、新地歌舞練場の前に出ました。 

     さて、かつて来たことのある店はどこだったろうかときょろきょろ探してみます。もうすぐ昼だというのに、祇園の花見小路は眠ったように人通りがないのです。

     表通りの店も、ちょいと覗いた路地道も、猫が昼寝しているだけで、どこにも同じような造りの茶屋が建てこんでいまして、どこがどこだかわからないのです。
     せめてもの目印は、もと舞子の源氏名であったことを偲ばせる粋な店名だけです。

     でも人に連れて来られただけで、それも一度しか来たことのない、それに夜の闇の中で、ほのかな明かりに浮かびあがった店の名前なんかどうして思い出せるでしょう。
     それによくよく見ると、そんなに古い建物も見当たりません。
     おそらくあの夜のことは、近くの霊山観音にお仕えする狐の仕業か、それとも私がもうろくしたかのどちらかなのでしょう。

     ここでも娘は慣れた足取りで常光院前を右に折れ、ゆるい上り坂の細い路地をどんどん先にたって歩いて行くのです。
     私はそろそろ歩き疲れて腹も空いてきたからでしょうか、年甲斐もなくいらいらしていました。

     どこに行くのだと聞いても知らんぷりです。「お腹すいたんでしょ」と八坂神社の入口前を、今度は南に曲がるのです。
     しばらく歩いて立ち止まって「確かに、ここだったのに」と言って、今度は東の祇園閣前を抜けて高台寺の前に出ました。
     ここでもないともと来た道に引き返し、「やはり、この辺りなんだけど」と、指さした店には「本日休業」の文字が見えました。

     ここは「ふわふわの親子どんぶり」が有名な店だそうです。ここまでわざわざ連れて来たのも、私にその親子どんぶりを食べさせたかったからなのでしょう。
     ここまで黙って引っ張ってきたのにも、親子どんぶりがあまり好きでもない私を吃驚させ、なるほど旨いと喜ぶ顔がみたかったのかも知れません。

     だめな親父は、「なんだ休みではないか」と不満気の顔しかできないのです。
     「この案内書をみてよ。火曜日定休と書いてあるでしょ。前に来た時も入れなかったから、わざわざ月曜日を選んで来たのよ」とまだ諦めきれずに、その店をもう一度振り返るのです。

     どうしたことでしょうか、先ほどとは異なり娘の声が急に優しくなったのです。
     おまけに狭い路地に咲いている花々を、いちいち珍しくも問いながら、「表通りに出て、昼ごはんを食べましょう」と言うのです。

     東大路通りに戻った私たちは、タクシーを停めて乗り込みました。既に午後の1時が過ぎていることを確認した上で、「昼飯にしようか、それとも御所見学の申し込みに行こうか」と聞いてみます。

     娘は「まだお腹は空いていない」というので、「それなら御所に行きます」と運転手さんに告げます。
     娘はせっかく楽しみにしていた親子どんぶり屋が休業であったことを、まだぶつぶつ言いながら、私にはあれこれと気遣いをしてくれるのです。

     やがてタクシーは、御所の中立売御門の駐車場入口に着きました。
     運転手さんの「管理事務所は、左手の奥です」の案内にしたがって、緑のこんもりとした庭に建つ宮内庁裏の管理事務所に向かいました。

     ここの事務所でも、観光客の姿を見ることはありませんでした。観光シーズンの京都旅行は、まるで観光客を観光に来たような混雑ぶりなのです。
     ですから京都旅行は暑い夏か、寒い冬に限ると考えていました。でも今日のような、茹だる暑さには耐えねばならぬと額の汗を拭っていました。

     管理事務所の女性吏員に「免許証か、保険証をお持ちですか」と聞かれ、「いや今日は持ってきていません」と答えますと、「旅行に出るのに、保険証を持って来ないのですか」と高飛車に仰るのです。

     「保険証は家でも使うことがありますので、旅行に持ってきたことはありません」と答えながらも、心の中では「修学旅行の生徒ではないのに・・・」とつぶやいてみます。
     返答に詰まった私は「案内所でお聞きしましたら、カードでも大丈夫ですと言われましたが・・・」と、少し首を傾け恐縮しながら申し上げますと、「どこの案内所ですか」と、ふたたび詰問されたのでした。

     それを聞いていた娘は、私が手にした申し込み書を取り上げるようにして記入を済ませ、自分のカードを提示して許可書をもらいました。

     こんなことで私は怒ってはいませんよ。
     ただ、そんなにきつく仰らなくともいいではないですか・・・と、思っていただけなのです。

     京都の街に少し嫌気がさして事務所を出ました。私の脇を若い外国人の男女5,6人が、御所の清所門の方に走って行きます。
     御所見学の時間に遅れそうなのかなと心配しながら、どこの国の高校生も同じようなものだと微笑ましかったのです。

     そう思いながらも頭の反対側では、「私たちは明日の見学のために、前の日にわざわざ申し込みに来ているのに、彼らはその日の申し込みで見学できるのだ」と、どことなく、何かすっきりしないものを感じているのでした。

     中立売の売店まで戻って来た私は、どっと疲れが出ました。でも、せっかく京都に来たのだからと、老いに鞭打ち、烏丸のホテルまで歩いてみようと決意しました。
     すると「お父さん、お腹すいたでしょ」と、また娘がいう。

      「では、そこの売店の手打ちうどんを食べようか」と言ってみます。娘は何も聞こえていないという顔をして、さっさと歩き出します。
     御門まで来ると、丁度門前を通りかかったタクシーに手をあげてから、「タクシーで行こうか」と言うのです。私は後から乗り込みながら、また気分が滅入ってくるのを感じていました。

     暑いし疲れたしお腹は空いたし、おまけに管理事務所で叱られるし(?)、ホテルまで歩こうと思っていたのに、タクシーに乗せられるし、私のイライラはピークに達していました。

     どうも最近些細なことでイライラ、自分で転んでイライラ、自分でぶつけてイライラ、人に言われてイライラ、犬が鳴いてもイライラするのです。
     年のせいかも知れませんが、脳の回線がズタズタに切れているようです。しばらくすれば自分でイライラの原因を見つけて、少しだけ反省してみるのですが、すぐにまた自分で自分が制御できなくなるのです。

     この時も娘は私に精一杯気遣っているはずなのに、また自分の我がままを押し通しているのではないかと誤解したのです。

     午後3時、とりあえずホテルに荷物を置いて、表に出て食事をしようということになりました。

     いつもなら、この辺りで気分がもとに戻るのですが、今日はなぜか意地でも戻そうとはしません。
     それだけではなく、娘の嫌いなラーメンを食べようと言い出したのです。それでも娘はあれにしよう、これにしようと、通りがかりの瀟洒な店に入りたがるのです。

     でもラーメンを食うことが、今日のイライラを鎮める妙薬なんだと心に決めて、「ラーメン、ラーメン」と歌いながら歩くものですから、さすがの娘も根負けしたのでしょう、「それならラーメンをたべましょう」と折れてくれたのです。

     店に入るなり「ビールをください」と注文し、1、300円もする季節限定・数量限定のラーメンを注文し、娘の制止も聞かずに数種類のトッピングを頼んだのです。
     関東言葉の変わった親娘が、昼間から食うは飲むはの有様で、地元の客が不思議がる。どうしたことだろう、そのお客さんの目を意識した時に、なぜかホッとしてイライラがスッーと消えて行くのを感じているのでした。

     いい気分になって、娘のウインドーショッピングに付き合い、裏通りに入ったり表通りに出てきたりしている内に、六角堂(頂法寺)さんの前に出ました。
     地面に届く縁結びの柳を手で揺らし、娘とお線香をあげていると、ようやく心が和んでああ京都に来てよかったとつくづく思っているのでした。

     「六角堂の奥に、華道の池坊会館があるんだよ」と説明しておきながら、さて六角堂と池坊の関係については、以前どこかで聞いたか読んだかしたはずなのにどうしても思い出せないのです。

     堂から出て、「へそ石」を見ながら考えました。でもどうしても思い出せないのです。
     「まあ、いいか・・・」と、酒と酔いのせいなんだと決めつけて堂を一周して山門を出ます。その山門の六角堂縁起の案内板を酔眼で見たのですが、読む気もしないで立ち去るのです。

     ホテルに帰ると既に5時を過ぎていました。娘は疲れも見せずに「烏丸あたりを散策しましょう」と立ち上がります。
     私は暑い中を歩いた後でのビールの酔いが全身に廻って、もう立ち上がることも億劫になっていました。

     娘に、「歩いてこいよ」といい終わらぬうちに急に眠気が襲ってきました。


 


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